命に関わる!?歯周病
歯周病は歯を失う病気であることをご説明しましたが、全身疾患とも関わり合いがあります。主だったものに、糖尿病がありますが、ほかにも、狭心症、心筋梗塞や心内膜炎といった心疾患、脳梗塞などの脳血管疾患、動脈硬化、アルツハイマー病、誤嚥性肺炎、ED(勃起不全)、閉塞性血栓血管炎(バージャー病)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)などが挙げられます。また、全身疾患ではありませんが、妊婦が歯周病に罹患していると、妊娠性歯肉炎、低体重児出産、早産とも関わることが指摘されています。
ここでは、日本人の主な死因となる心疾患および脳血管疾患に歯周病がどう関わるのでしょうか?
<aside> <img src="/icons/dental_gray.svg" alt="/icons/dental_gray.svg" width="40px" /> 表1 日本の主要死因の割合 厚生労働省HPより
医療の進歩で、脳血管疾患による死亡率は下がり、一命をとりとめることができるようになりましたが発症率自体は増えており、後遺症による要介護が増えています。
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心疾患、脳血管障害と歯周病
日本人死亡総数に占める割合は、心疾患と脳血管疾患を 合わせて約25%で、がんに匹敵する割合となり、年間約32万人の日本人が命を落としています。これら心疾患と脳血管疾患は、いずれも動脈硬化が発症の大きな原因になっています。
動脈硬化とは、動脈の血管が硬くなって弾力性が失われ、内腔にプラークがついたり血栓が生じたりして血管が詰まりやすくなる状態を指します。
狭心症・心筋梗塞は心臓を取り巻く血管内にプラーク(粥状の脂肪性沈着物)が堆積し動脈硬化がおきて、心筋に血液を送る血管が狭くなったり、ふさがってしまい心筋に血液供給がなくなり死に至ることもある病気です。
歯周病原細菌 であるP. gingivalisが血管内皮細胞に侵入できること,動脈硬化病変から検出され、また、古典的なリスク因子である高血圧,脂質異常,糖尿病などの因子だけでは動脈硬化性疾患の発症原因を説明できないことから歯周病との関連の可能性が指摘されています。
動脈硬化のリスクマーカーとされる炎症性サイトカイン※(腫瘍壊死因子TNF,インターロイキンIL-1,IL-6,IL-8など)やC反応性タンパク(CRP、体の炎症反応)は歯周病原因菌の感染により増えます。
※炎症性サイトカインとは、臓器で作られるホルモンとは異なり、一般にはごく近傍の細胞間で受け渡され、炎症反応を促進する働きを持つタンパク質です。 免疫に関与し、細菌やウイルスが体に侵入した際に、それらを撃退して体を守る重要な働きをします。疼痛や腫脹、発熱など、全身性あるいは局所的な炎症反応の原因となるため、歯周病患者は絶えず身体中が炎症を起こしている状態となります。
脳の血管が詰まって起こる虚血性脳血管疾患(脳梗塞)は、脳を養う血管の一部が詰まっておこります。詰まる原因としては、動脈硬化で細くなった血管につまる場合(ラクナ梗塞)、血管にコレステロールが溜まった結果、そこの血の固まりができて詰まる場合(アテローム血栓性脳梗塞)、心臓など他の部位でつくられた血の固まりが血流によって流れてきて詰まる場合(心原性脳塞栓症)があります。脳の血管の血流障害により脳組織の一部が壊死するため、意識障害や運動障害等を起こし、重篤な後遺症のために寝たきりになる原因疾患であると言えます。
歯周病が脳血管疾患の発症を上昇 させることが報告されていますが、アジア圏 においては,歯周病患者において未治療群は治療群に比較して虚血性脳血管疾患の発症数が多く,特に若年層(20〜44歳)で多いことが報告されています。また,日本では2013年にTaguchiらが110名の歯周病患者を対象にした症例対象研究において,脳梗塞の一種であるラクナ梗塞部位数と歯槽骨吸収量に有意な相関関係が認められたと報告されています。
また、日本での他施設合同研究は、発症1週間以内の全脳卒中に占 める若年者の脳卒中の割合は,若年者を40歳以下と定義す ると2.2%,45歳以下と定義すると4.2%,50歳以下と定義すると8.9%とされています。